学校偏
 
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『文化祭』(リオネ×エリック)-1

体育祭の後にあったのが悪かったのか、
題材が悪かったのか、文化祭の劇は男女入れ替えシンデレラだった。
学年全体で取り組む一大プロジェクトだけに、責任も重大で、
問題は深刻だった。
「諦めが悪いんだよ」
「どうして俺が諦めなきゃなんないの」
「今度は皆一緒だろ」
「笑い事で済む組と冗談にならない組に確実に分かれる!」
「・・・」
尤もな事を言われ、怯んでいる隙に脱兎。
陸上部の脚力で遠ざかって行くエリックは主役を大抜擢されていた。
「リオネ君、エリック君説得できた?」
「ねぇエリック君機嫌治ってた?」
「あたしの言ったこと気にしてた?」
「今日の稽古出てくれそうかな?」
教室に着くとすぐ、珍しくエリックに嫌な顔をされた女子達の、
控えめな質問攻撃が始まり、目で教室内、友人に助けを求める。
「おまえらエリック買いかぶりすぎたんだって、
 あいつ絶対やらねーぞ、そういう奴だ!
 女子の言うことなら何でも聞くとは限らん」
「嫌味の一つぐらいで挫けて全部リオネ任せってのもどうなんだよ」
「俺等なんかする会話する会話全部嫌味で返されてんだぞ」
「ちょっとお願いしただけなんだけど!」
「ていうかあんた達もちょっとは働けっていうの、うちのクラス主役持ちだからって、
 役者の数ちょっと減らしてもらったんだよ?エリック君説得できなかったら、
 あんたらからシンデレラ出すし」
「ふざけんなよ」
「大体何で女子が仕切りっぱなしなんだよ」
「男子がやる気ないからでしょー」
「待った待った待った、わかった、もっかい説得言って来る」
「リオネもういいってー、あいつ無理だってー」
ぎすぎすした空気、それに耐えられず出陣。
昼休みにエリックの、逃げ込める場所はどこか、
旧校舎への渡り路を移動しつつ、きょろきょろと辺りを見回す。
エリックが欠席した日、役決めの会議があった。
体育祭数日後でもあり、興奮の冷めなかった女装エリックの信者が、
(先にいた教室の男子三人のなか二人含む)
熱烈にシンデレラにエリックを推し、
(俺も投票してしまった罪)
翌日の学年会議でも奇妙な盛り上がりの元、
絶対数で可決され、士気が高まりまくり、
翌々日、やっと現れた本人がこれでもかと顔を顰め、
皆が正気に戻った。


***


「リオネ」
「おー」
向かいからやって来た巨体、肥満児ダダは実行委員であり、
体育祭のこともあり、クラスでエリックの説得係に共に祭り上げられていた。
「他のクラスの奴に会うたびさー、エリックの調子聞かれんだよなー」
「楽しみにしてる、って言葉が重く圧し掛かるんだろ」
「圧し掛かる、ついでにカメラ係とか引き受けたいらしい連中も居て、
 そんなん現れたらあいつ絶対海外逃亡する」
「俺なんかゴドーさんにいつバレんのかってヒヤヒヤだよ、
 あとルカスさん、あの人ら絶対エリックに変なちょっかい出して、
 気ぃ逆撫でそうで・・・」
「ウン、たった今逆撫でられて来たけど」
「!!」
「!!」
声から、びしびしと伝わる殺気。
「皆様お揃いで」
「エリック」
「・・・どこ、居たんだおまえ?」
「どこでもいいでしょ」
「おまえが原因で俺達がどれだけ苦労してるかわかってんのかよー!」
「行く先行く先でひそひそされればさすがに事態が今どうなってんのかは気づくよ」
「まぁ、話題性あるしな」
「ルカ先輩とか、ドレスを何時ごろ着用仕出すのか調べ出す始末だよ、
 もうあの人この時期だけ神隠しに遭えばいい・・・」
宙を睨む顔に、緊張しつつダダが口を開く。
「・・・後戻りはできないんだって、すでに」
「進んだ覚えもないのにね?」
敵意たっぷりに、笑みを浮かべ反撃、エリックの冷ややかな責め。
ただでさえ中傷のネタにされているエリックが、特殊な場に出ることを避けたい気持ちもわかる。
しかし現状からやはりここは、シンデレラの称号を受け取って欲しかった。
「なぁ頼むぜエリック」
ダダが遠慮がちに、おずおずと口を開き、説得の時間が始まる。
「出てくれたら毎昼パン奢るとか、何かそういう特典つけるから・・・」
地味な買収が始まり、しかしそれがエリックに通じるとは思えなかった。
「ダダってさー」
「あ?」
「よく見たら可愛いな」
「・・・」
「ほら、この目!綺麗な緑だし!
 肉感あるこの唇とか」
「おい、こいつカルロ病か?!」
「いや、たぶん上手くダダに代役させたいんだと思う」
「ふざけんなよ!!」
上手くこちらの、思うようには動いてくれない人物、
それがエリック・ヴェレノである。毒の名に恥じぬ男だった。
「大体俺はごつすぎて絵になんねーよ」
「絵になる必要は無いんだよ、だって喜劇だし」
「エリック!」
気が付けばすぐに、向こうのペース。
「あれ、リオネ、しばらく見ない間にキレイになったね、
 肌すべすべしてるよ、どうしたのこの髪、さらっさら!
 何があったのリオネ?!」
「・・・」
こうして交渉失敗、この日の稽古にエリックは顔を出さなかった。
女子達は不安がり、クラスの士気は下がるところまで下がろうとしている。
(このままでは確実に、エリックは悪者になる)
浮くところまで浮くと、虐めさえ始まる気がする。
あのエリックが大人しく虐められるかはともかく、
孤独と友達、そんな言葉を背負って三年間生活するのはどうなのか。
「あー、文化祭うんぬんの次元超えて大丈夫かあいつ」
バイクの上、ぼんやりと呟き、荷物を後ろに結ぶ。
そこでふとそのスペースに、意識が集中した。
「・・・」
空の青、押しかけた人の家の前、
朝の空気が頬を冷やす。前日の夕刻の閃きが、
今ここにリオネを立たせていた。
「・・・」
戸を開けて放心している、エリックの薄着から目を逸らす。
「何?」
「学校だ、学校」
「いや行くけど」
「バイクで来た」
「・・・」



5月4日(日)16:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 短編 | 管理

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