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『力・11』(キケルカ、ゴドエリ)-4 

廊下、決意の目をしたルカスは、キケロに抱き抱えられていた。
「ロベルトを待っている間にも、
 事態は変化している」
サリトの手下で、ルカスにサリトの説得を依頼した健気な男、ロベルト。
キケロがエリックのため、去ってからルカスと二人になったロベルトは、
ルカスの身の状態が良くないことで、ルカスをサリトの元へ連れてゆくことを数分悩み、
結局、サリトを直接に連れて来ると行って去っていた。
サリトの性格を思うと、今頃は大分苦労しているのだろうロベルトに同情を寄せる。
「どこに向かいてぇんだ?!」
「兵士舎上層部、通信室だ!」
緊急の状況で姫抱き、姫抱かれのキケロとルカスの姿は、
さぞ間抜けだったろうが、それを一番意識していたのは当人達だった。
「誰の目にも留まらぬよう、
 風のように駆け抜けろ!!」
「・・・言われなくてもだぜ」
離れのルカス邸からフィオーレ本邸へ、
兵士舎は本邸と連なっていた。
赤茶の絨毯の敷かれた、長い廊下を爆走するキケロの、
髪がなびく様が、使用人の目に留まる。
「今、ルカス様通らなかったかしら?」
「白金髪の男しか見えなかったわ」
「・・・えーと、御友人の」
「キケロ・マグランさん」
「マグランさん・・・お手洗いかしら」
「相当我慢してらしたのね」
おっとりと交わされたこの使用人達の会話は、吹き抜けの屋敷の空間に響いており、
廊下の端の螺旋階段を勢い良く、登っていたキケロとルカスの耳にもしっかりと届いていた。
「わかっているぞ、おまえは手洗いを我慢などしない」
「無理に慰めようとすんじゃねぇ、まったくもって気になっちゃいねぇんだからな!!」
「はは・・・それにしてもこの姿が目撃されなくて良かった」
ぐるぐると軽く七mほどの、階段の最後の五、六段、
さすがに疲れたのかどん、どん、と勢いの切れた速度で、
足を持ち上げ、階段を登りきったキケロの胸の中、
ルカスの身に思い切り、緊張のため力が入った。
「おまえ等・・・」
丁度医務室に窓口の女を届け、次の役目を果たすべく、ハンクの元、
向かう途中だったらしいゴドーと再び顔を合わせてしまった。
二人が固まったのは言うまでもない。
姫抱き、姫抱かれという姿の二人と、気を張っているのか、
別人のように厳しい顔のゴドー。組み合わせはあまりに痛々しかった。
「・・・見せ付けてやがんのか?」
「・・・」
片や、主人の傍を離れ想い人の危機へ駆けつけてしまった男と、
片や主人のため想い人を置いて来た男。冷えた空気の流れが目に見えて寒々しい。
「何か・・・すいません」
さすがに居心地が悪く、下を向いて珍しく弱弱しい声色で、
呟いたキケロにルカスもつられて下を向く。
「まぁいいけどよ、仲良さそうで」
暖かな言葉に、二人が顔を上げると、微笑んだゴドーの呆れ顔があった。
片眉を上げ、安心したような柔らかな表情をしている。
「悪かったな、心配を掛けて」
「この通り・・・ラブラブだぜ」
「その展開は予想してなかったけどな」
「俺もだ」
ゴドーのコメントにルカスが同意し、
キケロが笑い、空気が緩む。
「キケロ」
「あ?」
「殴って悪かったな」
「・・・そこは謝んなよ」
「じゃぁ、俺はこれで」
事態を意識すれば、長い立ち話は危険なのだ。
頃合を察したのか、すぐに笑みを消し、分散しようとするゴドーは、
やはりゴドーとして、ルカスの傍で生活するまでの間、
訓練を受けて来た人間なのだろう。
平和な生活に溶け込んで見えて、ゴドーの底には、
訓練の歴史がある。



11月3日(土)10:12 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理

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