| 『力・12』(ゴドエリ、他)-1 |
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| 「あーあー、なっさけない姿!やんなっちゃうよ」 楽しげな、美しい声の主はエリックだった。 すぐにわかる独特の甘さのある声は、 兵士に担がれた体勢のルカスの、斜め後ろから聞こえた。 「エリック!」 「俺の中の貫禄あるルカ先輩のイメージ、 粉々になっちゃってるんですけど」 「・・・それは悲しいお知らせだな」 兵士達の去った階段の上の空間。 下の階から吹き抜けになっているそこで、 再会した後輩は笑みを浮かべていた。 その穏やかな姿勢はルカスの心を癒した。 軽い言葉の暴力を受け流すと、その向こうの、 こちらの無事を確認し機嫌の良い、 暖かなエリックの心が見えた。 兵士に頼み、肩を借りる形で地に足を付く。 この後輩の前で、無様を晒していたくないと、 やはりまだ願うらしい心が、 ルカスの身を奮い立たせた。 「丁度良かったよ、 先輩ならフィオーレの当主に会えるんでしょ」 「何かあるのか?」 「一応許しを請わないとまずいかなって」 「許し?」 「塀の周りをガスで固めたいんだよ、空気よりちょっと重い奴で、 分子が粗いから塀内には入らないし拡散もしにくい・・・、 塀を出た人間がピンポイントで吸引するように撒きたいから、 庭用の仕切り板を数枚借りたくて・・・」 「無茶だ」 「ヴェレノの商品でね、新種の催眠導入ガス、 導入速度は遅めだけど、逃げるには辛いと思うんだよね」 「新種・・・」 「うん」 「危険だな」 「・・・3年前から実用化されてるよ?うちの目玉商品」 「エリック・・・」 「何、そんなに信用ない?ヴェレノの作ったものは?」 「そういうわけじゃない、おまえが、 フィオーレのために考えを巡らせてくれたのは嬉しい、 だが、危険だ、毒ガスを使用した戦闘など」 「毒ガスじゃないよ」 「俺には責任がある、絶対に安全だと、俺の判断できるものしか、 認めることはできない、・・・毒というものは、 被害が出てから発見されることが多い、悪いが、 フィオーレは得体の知れない気体の世話になる気はない、 叔父が許しても俺が許さん」 「・・・」 「叔父には会わせるが、その策は今すぐ捨ててくれ」 「・・・頭、固ーっ」 「何か言ったか?」 「失敗したよ、あんたが超保守的人間だって忘れてた」 「超保守が悪いか? フィオーレの課題は現状維持だ、 危険分子は排除こそすれ、 増やすものじゃない」 「現状?味方の誰をも信用できずに、 顔のわからない敵の脅威に晒されてるこの状況、 維持したいんだ?」 「エリック」 「・・・」 皮肉気な笑みを浮かべこちらを睨む目に、敵意があった。 放っておけば勝手を起しそうな、気配が伺える。 そのためルカスは、さらに気の重い提案を、 エリックに打ち出さなければならないことを悟った。 「・・・おまえのことだ、 策に向け、手はずを整えているのだろう、 頼む、俺の前でその準備を一度解いてくれ」 「・・・」 能面の後輩、機嫌を損ねると表情を消すエリックへ、 願いを込め視線を送る。 「エリック」 「俺のことが、信用できないんですか?」 「・・・エリック」 「俺だってフィオーレのことを考えています」 「充分知っている」 「・・・なら、」 「エリック、どうしても、 譲れないものがある、 それがこの地の絶対的な安全なんだ」 「犯人が捕まらなきゃ、問題は解決しません」 「ゴドー達が捕まえる」 「・・・」 エリックの、用心深さはまったくの意識なく、 第二の策を用意してしまった。 その働きの意味を始めて意識した心が、 きょとんとした無防備な、 幼い顔を作った。 「は・・・!」 口端を上げ、エリックは片手で顔面を覆うと、 首を振った。 「はは・・・」 肩を震わせ、声を潰す。 「どうした」 「まったく貴方の言う通りだ!」 顔を上げ、厭味の無い笑みを零し、 エリックは携帯を取り出した。 「これ、作戦のすべてのボタンが詰ってるんで」 「・・・」 「状況を見て消すも良し押すも良し」 「ありがとう」
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11月3日(土)10:07 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理
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