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『力・12』(ゴドエリ、他)-5

「・・・一つんなったら、やっぱ見て見ぬふりとか、
 できねーようになるんじゃないですか」
「見て見ぬふり・・・」
厭らしい言い方をしたと、
意識して顔が赤くなる。
「そうだな」
「すいません」
「いいんだ、手出しができぬからと、我々は確かに、
 それらのものに、素知らぬ顔をしている」
「・・・すいません」
「謝ることはないさ」
「俺は時々、この幸福が憎くなります」
「・・・」
「でも、フィオーレはそういう、
 外部の人間をこうして、ゴドーに抜擢する、
 外部でも、信用されている感じがして、
 嬉しいから、どうしても、
 フィオーレのことだけを考える、
 けど、故郷を思うと、俺は俺が憎い」
「・・・ああ」
「俺は根が裏切り者なんですよ」
「フィオーレを裏切りたいのか?」
「いえ・・・」
「ならいい」
「はい」
「ゴドー・ジェキンス」
「はい」
「ルカスを頼んだ」
「はい」
墓の下、埋まっている参謀は裏切り者と呼ばれたが、
今はただの潜入者と見做されている。
通信室に潜んでいた主格もまた、裏切ったのではなく、
潜入していたのだ。墓の下の二人は裏切り者ではない。
真の裏切り者は自分なのかもしれない、と思いつめていた心に、
マルクス・フィオーレは相変わらずの、真剣な顔で渇を入れた。
悩むことは兵士に求められていない。
ただ主人を守ろうとする心だけ。
平和な世界に適応し、主人の優しさに甘え、
友人関係を主張していた己を、急激に恥ずかしく思う。
主人は主人の個人的な悩みを、打ち明けようとはしなかった。
初めから主従の関係であったのだ、何が蚊帳の外だろう。
友人ごっこはせめて、同じ立場のキケロとでもすれば良かった。
ゴドーの内面を察知したのか、マルクスはゴドーの背を、
そっと撫でてくれた。





「お世話になるよ」
その三日後、墓の前で噛み締めた自分の暗い本音の、
余韻の吹っ飛ぶ事態に遭遇し、ゴドーは数秒、思考が停止した。
マルクス・フィオーレの渇を繰り返し思い出し、
精神の安定を図っていた心がまた別の意味で激しく動揺している。
ゴドーは自宅の戸を開け固まっていた。
「ルカ先輩に頼んだらあっさりオーケーもらったから、
 キケロでも良かったけどあいつも一応ヴェレノの人間だし」
「落ち着け、俺、考えろ」
「無駄、いくら考えたって無駄だよ決定してるもん、
 俺はおまえの家に住む、おまえの力の保護下に入る、
 ヴェレノに戻る気はないし転校もする気はない!」
「エリー・・・」
「エリック」
「前とは状況が違うだろ・・・」
「俺のベットまだある?てか俺の部屋無事?
 エロ本の隠し場とかにしてない?」
おまえの部屋そのものがエロ空間だ馬鹿野朗、
と心中で呟き壁に雪崩れ掛かる。
「何のために追い出したと思ってんだよ」
「は?俺が仕事見つけて出てったんですけど、
 おまえに追い出された覚えなんかないよ」
家出少年を匿う。実にルカスらしい頓狂な計らいの犠牲になった一年前。
ジェキンスの資格を持ち、寮の傍、家を与えられたゴドーの元、
押し付けられた麗人は鼻持ちならない性格の持ち主だったが、
食事の世話をしてくれた。
「良いもの食わせてあげるから我慢してよ、
 俺だって可愛い女の子と暮らしたい」
「・・・むさくて悪かったな」
「ルカ先輩のせいで本当めっきり告白が成功しなくてさぁ」
「おまえの性格がばれて来たせいじゃないか?」
「え、でも予想外のとこからは未だに愛来るよ?」
「・・・来るもの少しは拒むようになったんだな」
「じゃないとおまえに申し訳ないじゃん」
「・・・」
普通にこちらの気持ちは把握しているらしい。
「殴っていいか?」
「やめて、痛いの駄目なんだ俺」
玄関先の壁際、力尽きたゴドーと会話をしながら、
荷物を部屋に放るとすぐキッチンに立つ男に惚れ惚れとする。



11月3日(土)09:59 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理

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