| 『力・2』 |
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目前をエリックがきびきびと進んでいる。 午後の傾いた日差しが木々の隙間に入り込んで来ていた。 数分前、不必要な力に震えていた足は、 筋肉が疲れて重くなり鉛のようになっている。 「おい」 3歩先に居たキケロが立ち止まり、 渋い顔でルカスを振り返った。 「置いてかれんぞ」 「・・・」 エリックの容赦の無い歩調が今、 ルカスを50m引き離していた。 その引き離されたこちらの位置に立った発言。 キケロの属する側が、 置いてゆかれるルカスの側だということ。 「走って追いつけばいいだろう」 気恥ずかしさで、そっけなく返事をしたら、 今度は真剣に顔を顰める。 「走れんのか」 徹底して、ルカスに合わせようとする態度が、 ルカスをさらに苦しめた。 見晴らしの良い学校裏の林は、 小さくなりかけたエリックの背を、 辛うじてルカスの肉眼に映す。 「いいから早く主人を追いかけろ、犬失格だ、 これは、エリックに自分を売る良い機会だろうが、 大体俺はサリトとは友人だ、弱っていたとしても、 身の安全は図れる、 あいつは違・・・」 言い掛けたところで、頬を抓られ、 呆けたところにキケロの、大きな手が、 眼前、何かを要求するように迫った。 「お手」 「・・・?!」 「忘れてるようだから確認な、 小型犬はどうにも手ぇ掛かるけど、 可愛いから許す」 「・・・ッ」 バシン、と勢い良く、叩くと薄笑い、 キケロの楽しそうな顔は憎らしく魅力的で、 これが立場の弱いものの、 依存的な嬉しさか、と思う。 強い力に、守られる喜び。 そんなものを感受したくはなかった。 「行け、さもないと電話をしてやる、 もう限界だ、サリトに、 おまえとの仲をすべて打ち明ける。 俺が犬だと、ふざけるな、 こんな侮辱と屈辱だらけの関係を、 これ以上続けるくらいなら・・・」 「最初に人を犬扱いしたのはそっちだろうがよ」 「・・・」 「大丈夫だ、エリックは無茶はしねー」 「・・・」 「それに、サリトの喧嘩は常に打算付きだ、 人数集めて事実を固めて、統治のし易い方向に持ってく、 とは言え人が集まんのもそれぞれ事情があるだろうし、 夜になんねーとなかなか数が揃わねー」 「・・・」 淡々と、説明するキケロの顔や、口調、存在がまるで、 ゴドーのように身近に感じられる。 「・・・そうか」 思わず笑いかけると、向こうは眉を上げ下向いた。 それがキケロの照れの仕種だと、気づいたのは最近だった。 ふわりと、軽くなった胸に触発され、力の抜けた足に、 転ばされそうになった身体が支えられる。 「ありがとう・・・」 素直に口をついて出た言葉に、驚いたのはルカス自信で、 「3回はやりすぎだったかよ?」 「・・・」 後悔した頃には遅く、キケロの軽口は快調に飛び出した。 「善がりまくってたもんな」 「・・・」 力が欲しい、体調の不良を吹き飛ばし、 この目の前の男を殴り飛ばす力が。 などとルカスが心中で強く思った時、 ふいに視界に金髪と青の目が加わった。 「ねぇ・・・?」 「ッ・・・!」 「!!」 「ルカ先輩さ、まじで具合悪いんじゃないの?」 いつから、居たのかは知れない、 引き返してきたエリックが、 真後ろに立っている。 「キケロ」 「何だよ」 「背中貸してあげて」 「お、おう・・・」 「いらん、俺は後で合流する」 「駄目だよ、 だってこいつのせいでよろよろなんでしょ、 責任取らせなきゃ」 「・・・」 決定的でなく、しかし明らか、 事情を察したような口ぶりに、 固まった二人に笑いかける。 「どしたの、俺急いでるんだからさ、 さっさと指示に従ってくれる」 氷のような瞳が二人を、 縛りつけ、この時、最高の権力者が誰であるかを、 はっきりとさせたのだった。
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サリトの所在の候補は初め70箇所以上だったが、 エリックは推測で12箇所に絞っている。 「弱みの検討はついてるんだよ、 最近一般のお友達を大分大切にしてるみたいでね、 サンピエトロ・ボーン、彼に守りをつけないのは、 恐らく油断、胡坐かいてるんだよ、恐怖の上に、 親友がもし危険にさらされたら、サリトは本気で怒る、 その怒りを誰もが恐れると思ったら大間違いなんだよね」 「・・・おい、まさかとは思うがよ」 「こっちだって親友が危険なんだから・・・ お互い様だと思わない?」 「やめろ!殺されんぞ」 「でもこのままじゃ太刀打ちできないし、 いくらゴドーがガタイが良くても、 喧嘩に関してはあいつ素人でしょ、 サリトの手に掛かったら確実に・・・、 俺はね、ゴドーのこと、 本気で守りたいんだよ」 「・・・」 林に当たる日はすでに赤くなり、 エリックの横顔を鮮やかに照らしている。 歩行のため揺れる金の髪に、 ルカスは眩しさを覚えた。 「エリック・・・」 「何」 「囮が欲しくないか」 「・・・」 「俺がサリトと会おう、 話し合いを申し込む。 従兄弟の口からなら、 あいつも無碍に断らんだろう、 なるべく足と思考を止めさせ、 あわよくばゴドーの件の、 説得を・・・」 「先輩」 「余計な策か?」 「いえ、ただ、助けに行ける自信が・・・」 「おまえな、 失敗を前提に考えるな、 何、上手く立ち回るさ」 「おい!」 二度目、キケロの責めるような不安げな瞳に、 今度は暖かく微笑み返すことができた。 ルカスはキケロを好いている。 エリックとルカスは同時に、そのことを確信した。 頬が火照るのは仕方がない。心配は嬉しかった。 「大丈夫だ、座っていられるはずだしな」 エリックに見えぬよう、さりげなく、 身を預けている背の、首のあたりに口付けた。 「度胸は認めるが無謀だぜ、 どいつもこいつも・・・」 苛ついたキケロの乱暴な声の調子とは裏腹、 ルカスを気遣った足の進ませ方は静かで慎重だった。
続
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12月12日(水)21:51 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理
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