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『力・4』(エリック+ゴドー+キケルカ)-3




「おい、謝れ」
「・・・悪かったな」
「この埋め合わせは必ず、
 君の親切には感謝していた・・・」
男はルカスの言葉に俯いて黙り込み、
何か考えていたかと思うと顔を上げる。
「じゃ、あの、
 サリトを・・・」
「・・・ん?」
「止めてくれ」
「・・・」
「なんて、こんな、
 善意に漬け込むみてぇで、
 悪いんだけど、
 あいつ変なんだ・・・」
「・・・」
「あんたは・・・、
 サリトに意見できる人間だ、
 俺や仲間達の誰かじゃ駄目なんだ、
 反逆になっちまう、
 でもあんたなら忠告になる」
「・・・小一時間前怒りを受けたばかりだが」
「そう、それできっと、罪悪感とかあるだろうし」
「話をしようと乗り込んだところで、
 今度は輪姦されるなんてことはないだろうな」
「そっ・・・そんなことする奴ばっかじゃ・・・、
 ねー・・・ぞ?!たぶん!
 男にはまじで興味ねぇって奴も・・・、
 んー、うん、俺が守るよ!」
「・・・激しく不安だ」
「あ、そうだ!ゴドーって奴!
 そいつも居るぜ!!」
「・・・何?」
「さっきはサリトの前だし、
 黙ってたけど、そいつが消えたのはサリトと、
 喧嘩するためなんだ、
 あんたらのことを知って、
 あんたらに、制裁する気満々だったサリトに、
 決闘申し込んで、勝ったらその制裁を、
 無しにしてくれって」
「・・・」
思わず、固まったのは当惑からだった。
ルカスとキケロの間を、氷のような事実が吹き抜け、
ルカスは目を閉じ、キケロは眉間に皺を寄せた。
「サリトはそいつを酷ぇ目に合わせて、
 サリトを憎ませて敵のボスにしてぇんだ、
 勢力は二分するとぶつかるばっかだよ、
 サリトはそれを忘れちまったんだ」
企みにゴドーが巻き込まれた原因。
それは自分達の不和にあるらしい。
ゴドーは二人の身を案じ、サリトの元に消えた。
「泣かせる話じゃねぇかよ、
 くそっ・・・!
 馬鹿は俺か?!」
「おい・・・」
ゴドーという男は素朴に人を思いやる。
感謝というよりは怒り、
キケロは喚くと衝動のまま、
先ほどルカスを発見した浴室へ。
後ろでルカスの声がしたが、
無視をして歩みを進めた。
「何で俺は・・・」
ゴドーはキケロとルカスを救うため、
一人黙って、サリトに立ち向かった。
一方で自分はただ、ルカスを興味半分に侮辱し、
対立し、そこにあった和を乱しゴドーを苦しめ、
ルカスに痛みを運び、ゴドーの顔に泥を塗った。
仮に自分の知らぬ場で、エリックが辱められ、
痛みを与えられたなら、その怒りは計り知れない。
「ゴドー!」
浴室の壁を殴り、
呼ぶと詫びても詫びきらぬ友の名が、
響いてまた心を揺らした。
「おい・・・」
追いついてきたルカスの気配がし、
あの身体でよく移動できたものだと視線をやれば、
殴った男に抱えられていた。
怪我人を酷使してんじゃねぇよ、と軽口を叩こうとして、
自分ではない男の胸に居るルカスへの反感で言葉が詰る。
いつも心が狭い自分に嫌気が差し、
涙さえ出そうな痛みが走った。
エリックへのコンプレックスに振り回され、
同じ状況のゴドーへ、理解を迫って嫌がらせをしたのだ。
ルカスへの興味の底に、ゴドーへの甘えがあった。
それは純粋にルカスを愛しく想っている自分の、
唯一綺麗だと信じる心までを否定する、悲しい事実だった。
「おい・・・」
遠慮した、ルカスの声に胸が詰る。
自分の背はさぞ小さく丸まり、情けなく写っているのだろう。
「なぁ、何で世の中は不平等なんだよ、
 何で俺は地位が低くて、金持ちでもなく、
 エリックに好かれる女って性別でもなく、
 何で・・・出来た人間じゃねぇんだ、
 せめて善人なら良かったよなぁ、
 こんな条件しかねぇ男が、悪人じゃ最悪だろ!
 俺みたいな人間が、あいつと関わるんじゃなかった!
 エリックもゴドーもおまえも、
 良く出来た良い奴だ!俺だけだ、
 こんな最悪の人間は、
 あいつみたいに、良い奴になりてぇよ、
 俺だって、誰か守れる人間になりてぇよ、
 せめておまえだけでも、
 守れる奴でいてぇよ」
何もかもが胸に刺さる。
罪悪のある時、人の善意は凶器に変わり、
皮肉なことに人の心を抉る。
「俺は・・・」
あまりにも勝手な言い分を叫んだと、後悔し言訳を探そうとし、
言葉が詰ったところで、後ろ、ルカスの笑う声が聞こえた。
「その心は充分善人だ」
「・・・」
はっきりと言い切られ混乱した頭が、
ルカスの独特の説教を予感する。
「行いを正せば良いだけの話だろう、
 おまえは悪人じゃない、
 心が弱いだけだ、少し耐えてみろ、
 邪悪な衝動は誰にでもある、
 それを抑えられる練習をすればいい。
 ・・・俺が教えてやる、
 だから泣くな」
「泣いてねぇ!」
怒鳴って振り返ると慈愛に満ちた笑みで、
ルカスに見つめられていたため思わず顔に熱が集まる。
「物は考えようだと思わないか、
 ゴドーは強いが考えが浅はかだ、
 現にサリトに騙されている、
 サリトはゴドーとの約束を守る気はない、
 当たり前だ、敵対したいのだから。
 俺達の課題は騙されたと知らされた時の、
 あいつの怒りをどう鎮めるのか・・・」
演説をしつつ、抱えられた体制のルカスの姿は間抜けで、
好い加減その男の胸から降りろと命じたいところだったが、
キケロはまだ黙っていた。
「・・・エリック」
ゴドーの怒りに拍車を掛けるとしたら・・・、
ふいに浮かび上がった主人の顔に凍りつく。
「くそっ」
「どうした」
大股に今度は玄関へと向かったキケロに、
ルカスの落ち着いた問いが投げられ、
キケロは逸る気を撫でて唇を湿らせた。
「エリックが一人だ!」
端的に叫ぶ。
それでルカスはすべてを悟ったらしく、
眉間に皺をよせた。
「急げ!」
言われずとも、と急いた足が、
ルカス邸を勢い良く飛び出した。




12月5日(水)01:14 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理

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