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『力』(エリック他 キケロ×ルカス)ー1





人物メモ

エリック・ヴェレノ
一年、キケロの主人、ゴドー、キケロの本命、
ルカスの想い人の息子、気難しい性格


ゴドー・ジェキンス
三年、ルカスとキケロの喧嘩に巻き込まれた苦労人、
ルカスの一族に養われている、サバサバと明るい性格


サリト・シュトール
大学一年、リオネ・シュトールの兄、超人、
不良を組織化して束ねている、キケロと過去に揉めている
初登場『首・2』


リオネ・シュトール
一年、エリックのクラスメイト、ゴドーの後輩、サリトの弟、
怒っているか困っているか慌てている
初登場『リオネ・シュトール』


カルロとダダ
一年、エリックの友人
※エリック、リオネ、カルロ、ダダで学校四人組
初登場『体育祭』


ルカス・フィオーレ
三年、ゴドーの主人、奇人変人で名高いが独自の徳を持っている。
現在キケロに屈服させられてる。


キケロ・マグラン
三年、エリックの一族とは伝統の主従関係にある。
サリトを恐れている。
初登場『隣のカルロ・5』


サンピエトロ・ボーン
サリトの友人
初登場『力』




***



店の隅、厳しいジャズの世界に入りたてたボーンが、
見習い雑務の中に見出した至福の時、
最愛の曲が演奏される日が、今週もやって来た。
赤と黄の光だけ、店内の暗さは音を鮮明にする。
そこでふいに尻ポケットから振動が伝わり、ボーンは凍りついた。
『今どこ?』
『店』
大学を抜けて来て二時間。
そろそろかとは思ったが、やはりそろそろだった。
急ぎ閉じ篭った手洗い場の冷たい空気の中で、
悲しい諦めの声で返答をしながら、覚悟を決める。
この悪友に密やかな至福の主張をしたところで、
理解されるはずもない。
今週の至福は、お預け。
『今おまえが必要なんだけどさ』
『うん』
この日一日の悪友の無口は、普段の彼の騒がしさを思えば、
悪友に悩みの生まれたことの推測が容易につく。
『実は聞いて欲しい話があってね』
悪友はボーンを打ち明け口にしていた。
相談をされることに、嫌な気はしない。
だが私生活に犠牲の出る所が難点だ。
『ああ・・・俺の至福の時』
『何か言ったか?』
『・・・いや』
『まぁ、すぐ終わるからさ!今休憩時間だろ?
 音が鳴り始めたら潔くおまえを解放しますって!
 うわ、っと危な!』
『・・・』
電話口の声と共に頭上でズル、と何かの滑る音。
勢い良く、手洗い場の窓を開け、首を上に捻る。
「っよぉ!よくここに居るってわかったな?!
 ちょっと体勢崩しただけだから心配ないよ?」
「・・・」
普通なら驚くだろう、「何故居る」と思うだろう、
しかしボーンには慣れた展開だった。
屋根の上でにこやかに、手を上げた悪友を確認した後、
すごすごと頭を手洗い場に戻すと、窓を閉じた。
『反応薄っ』
『慣れたわ』
電話口の向こう、悪友にして超人、
サリト・シュトールの笑い声が響いた。
『もー、つまんねー子!
 でもそこがす・き!!』
『・・・話ってなんだ?』
『あー、それそれ!いやー、それがさー、
 俺ね、決闘申し込まれちゃってさ』
『・・・決闘?・・・おまえ何したんだ?』
『何もしてないよ』
『・・・キケロ・マグラン?』
『残念ながら違いまーす!関係性はあるけどね、
 たぶん仇打ち的なものなんじゃないのかなー、
 ゴドー・ジェキンス君 185cm 70㎏。
 キケロの友人なんだってさ!』
『・・・なるほど』
『で、本題!!!このゴドー君がさぁー、
 一目見た時からビビッとは来てたんだけどねぇ、
 筋肉ヨシ、風格ヨシ、目力ヨシ、思いやりヨシ、
 ・・・つまり良い素材なんだ』
『・・・』
『我が校の高等部バスケ部所属、
 この方暴れた経験はないらしいの、そこが味噌!
 彼良い線行くと思うよ、覚えちゃえば』
『善良な一青年がまた抗争の世界に引き擦りこまれるわけですか』
『いや~な言い方するねぇ~、
 まぁそういうことだけど!
 欲しいんだわ、反対勢力!
 キケロが戻ってこっち活気付いちゃってるみたいでねー
 どうも最近、俺の顔で下のほう、暴れてるらしいからさぁ、
 俺の名前使うのが怖いくらいの奴がね、兼ねてから、
 必要だなぁ、と思ってたんだ、
 彼、分別もありそうだし』
『・・・派手に崩す気みたいだなぁ、怖い怖い、
 同情するよ・・・その青年に、何て言ったっけ?』
『ゴドー・ジェキンス君!
 足あたりバキッとやっとけばさぁ、
 まず、部活ができなくなるよねぇ、
 加えてフィオーレの養い学生だし、
 卒業後はその筋の訓練しなきゃいけないわけで、
 体は資本でしょ、三年の、大事な時期だよねぇ?
 動けなくなったら上手ーい具合に、
 腐ってくれるんじゃないかなって』
『フィオーレの養い学生、って大丈夫か』
『何が?』
地主と化しているフィオーレの一族に、いくら超人と言って、
逆らうのは身のためにならない。それをわかっての計画だろうか。
『それとバスケ部って言ったら、リオネ君が・・・』
『・・・』
沈黙、饒舌なサリトが珍しく黙った。
間が悪く再開した音楽を、ボーンの左耳は聞きつけたが、
聞いて聞かぬふりで黙っていた。
近頃の携帯は些細な外部の音なら軽く遮断する性能を持っている。
しかし、サリトは屋根に居たのだった。
『始まったっぽいな!切っていいよ、後でね』
『おい・・・』
『じゃ』
電話を、わざわざ店の屋根に登ってしたのは、
いざとなっても我侭の言えないボーンのためで、
こうして事前に、自分の企みを親友にぶちまけるのは、
恐らく懺悔。
どこまでも人間。
超人サリト。
プツ、と切られた繋がりの向こう、ツー、と何の面白みも無い音を、
ボーンはうっかりと聞き続けていた。
サリトのことは嫌いではない。だが好きでもなかった。
胸に残った少しの不愉快さ。
サリトにしてはわかりが良すぎる。
キケロ・マグランの帰国。
そわそわとしている悪友の想い人の、
どこが良いのかわからない。




12月16日(日)23:21 | トラックバック(0) | コメント(0) | 力シリーズ※メイン | 管理

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