| 『無意識の天秤』(キケロ×ルカス) ※『首』設定前提 |
|
|
帰り道曲がり道。 「なぁ」 「・・・」 「おい」 「何だ」 暗くなりかけた車道は、薄い光で世界を狭め、 「フィオーレ」 「・・・」 返事の間を長く感じさせ気に食わない。 「何か喋れ」 「何をだ」 返事は短く不機嫌に、返って来たが気にしない。 ルカスの無愛想はいつものことだった。 「何でも・・・性癖とか」 「・・・」 一笑、蹴られた話題はお気に召さなかったらしい。 我慢を仕切れず、人差し指で、向こうの肩を突く。 横を歩くルカスの存在に関わりたくてたまらない衝動。 「何か喋れ」 背を曲げてやっと、見える横顔はつんとすましていて、 今度は滑らかな頬を突いてやると、向こうはぴたりと足を止めた。 「どうも絡むな、何かあるのか」 「何もねーよ」 眉を顰め、こちらを向いたルカスの、 白い顔が愛しく、顔がにやける。 「鬱陶しいってか?」 「いつものことだろう」 「てっめ、言ったな」 ふにふにふに、と感触の柔らかい、頬を突きまくり攻撃をする。 こちらの浮かれた気分が伝わったらしく、向こうは困ったよう、 溜息をつきそっぽを向いた。 「何が楽しい」 「別に、何だ、何てことねーけど、 二日ぶりだろ?!」 「・・・」 立て続け、エリックの用事に借り出されたキケロが、 ルカスを誘い家路に付くのは二日ぶりで、 本来二日程度の空白は、お互いに何てことの無いもののはずだったが、 ここのところ毎日のように、顔を合わせていたのが祟り、 生活に不自然を感じさせていた。 「やっぱ何だ、間が空くと愛しさが増すっつーか」 「・・・愛しい、という言葉の意味を、 わかって使っているのか怪しいところだが」 「あ?」 「おまえのそういうところは好きだ」 「・・・」 顔、集まる熱を気合で殺し、 下を向いて照れに耐えていると携帯が鳴った。 恐らく主人にして想い人、 エリック・ヴェレノの用事だろう。 「おう」 『キケロ?今どこ』 「陸橋200m前ってとこか、林沿いの曲がり道だ」 『・・・』 「何か用か、どこだ?」 『遠いからいいよ』 「おい」 プツ、と切れた携帯に、 舌打つとルカスの笑いが聞こえた。 「つくづく、都合の良い男だな」 「・・・」 何時、いかなる時も駆けつける体勢。 「行かなくていいのか」 「遠いからいいってよ」 「・・・そうか」 単純に終わった会話だったが、 エリックに都合の悪かったキケロは、 珍しいキケロなのだということを、 ルカスはわかっているのだろうか。 長年奴隷生活を送って来たキケロが、 エリックの用事の推測を、 付けられぬわけがないと、 ルカスはわかっているのだろうか。 ルカスの言葉の攻撃を流して、 キケロは胸に焦燥が過ぎる。 東側をいつもは通っていた癖、 今日に限り西側を選んだ。 ルカスの家にも、 キケロの家にも、 遠回りの道だが、 途中にある店に寄る、言い訳を作って。 普段ならエリックの用事を予測し、 呼ばれ先を予測し、近い道を選ぶ。 そこでルカスの歩調が少しだけ早まっていることに気づいた。 「何機嫌良くなってんだ?」 「通常の機嫌だ、希望でものを言うな」 たとえルカスが目の前に居ても、 キケロは躊躇なくエリックに返事をする。 それはルカスもキケロも認めているキケロの都合だった。 だが今自分がしたことは・・・。 「ゴドーもおまえほど忠実だといいな」 黒い陸橋が目の前、登りかけでふいにルカスが話題を振った。 「俺んとこは親ぐるみで躾られてるからな」 「その前に恋慕が立っているんだろう」 「・・・まぁな」 すぐ行くという態度を、 すぐに行けぬ場所から。 「一途にもほどがある、呆れた男だ」 小さな反逆、恋慕と結びつく忠誠への不敬は、 何を意味するのか。 「・・・てめぇもあいつを惚れさせて、 尽くさせてみりゃいいんじゃねぇか」 「おぞましい提案だ」 毎度、ゴドーが話に登場すると、 和やかな笑いが起こる。 「なぁ、素直になれよ」 洩らした言葉は誰に向けてか。 何を意味するのか・・・。
(2008 5/20)
| |
|
12月5日(水)20:54 | トラックバック(0) | コメント(0) | 短編 | 管理
|
| この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |